菅原博之

埼玉、東京
  • 木工
菅原博之

私の作る漆の器やカトラリーは「当たり前として使われ続けてほしい」という想いが根底にあります。それには何が必要か? と私なりに考えた答えは、「使ってみたくなる形」「手馴染み」「料理を盛り付けた時の印象」「手入れのし易さ」です。それはありきたりではありますが、私自身が日々の食卓を囲む中で、毎日使ってしまう器がそうであるという、私の中で大事な視点となっています。

「気がついたら数年使い続けている」「漆が剥げたり、ふちが欠けたりしても修理をして使いたい」「器に興味の無い旦那や子供が気がついたら毎日使ってる」そんなふうに永く日常で使っていただける器を、という想いで作品を制作しています。

自分自身、制作した器を自宅で使うことで、料理を盛り付けた印象、使い心地が確認でき、新たな制作意欲が湧いてきます。使うことで感じた「手入れのし易さ」という観点から、最近は殆どが漆仕上げの作品となりました。私の器は一般的な漆器とは印象がかなり変わりますが、古くからの日本の食文化から繋がる漆文化に、多様化した現在の食文化が上手く共存できる器として、セオリーなどにこだわらず、様々な手法を使い表現しています。

Q.木工の道を志すこととなったきっかけや思いを教えてください。
20代の頃、ディスプレイデザインや制作の仕事に携わっていました。自分が設計・デザインしたものが形になり、多くの人の目に触れることには大きな喜びがありました。しかし、その一方で、流行や季節に合わせて作られたディスプレイは長く飾られることはなく、時期が過ぎると壊されて捨てられてしまいます。そんなやるせなさを感じる中で、「時代が過ぎても壊されることなく、長く愛され、使われ続けるものを作りたい」と強く思うようになり、木工の道を志しました。

​Q.どんな瞬間に、どんなものやことからアイデアを引き寄せていますか?
自宅で使っている食器のほとんどは、自作した漆の器やカトラリーです。料理を盛り付け、家族と食事を楽しみ、洗って片付ける。そうした一連の日常の暮らしのなかで無意識に浮かんでくることが多いですね。「この食材にはどんな器が合うだろう?」「どんな形状のスプーンならもっと使いやすいかな?」と、実際に生活の中で使うからこそ生まれる視点を大切にしています。

Q.音楽、道具、食べ物、空間など、手を動かす時に欠かせないものを教えてください。
本当は無音の方が集中できますが、欠かせないものといえばBGM(音楽)ですね。ただ、何でも流れていればいいわけではなく、「その時の気持ちや作業のイメージにピタリとはまる音楽」を聴きながら作業したいのです。そのため、予期せぬ曲や情報、CMが入ってくるラジオや、アルゴリズムによる「おすすめ再生」は少し苦手で……。ネットラジオで細かくジャンル分けされているチャンネルの中から、自分の感覚にフィットするお気に入りのチャンネルを選んで聴いています。

Q.料理を引き立て「気がつけば手に取っている」ような理想の形や質感を生むための工夫を教えてください。
器であれカトラリーであれ、プロダクトの真価は「最初に手にした瞬間」から始まっていると考えています。道具はあくまで食事を引き立てるための「補助」です。道具を使っていること自体を意識させず、その先にある料理や食卓の会話に意識を集中してもらえるような、手に馴染むフォルムや質感を追求しています。

Q.ブースで、料理を盛り付けた写真を見せる試みを通して、使い手にどんな食卓のイメージを届けたいと考えていますか?
木の器や漆器、木製カトラリーは、日常使いの道具としては「扱いが難しそう」「和食に合わせるもの」といった固定観念をお持ちの方もまだ多いと感じています。写真を通して「えっ、こんな料理を盛り付けてもいいの?」という驚きや発見を届けたいですね。格式や敷居の高さをなくし、特別な日だけでなく、ご家庭で毎日気兼ねなく使っていただけるイメージを感じていただけたら嬉しいです。